銃2020

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銃

スタッフ

  • 企画・製作奥山和由KAZUYOSHI OKUYAMA

    1954年生まれ、東京都出身。
    20代後半からプロデューサーを務め、『ハチ公物語』『遠き落日』『226』などで興行収入40億を超える大ヒットを収めた。一方、『その男、凶暴につき』で北野武、『無能の人』で竹中直人、『外科室』で坂東玉三郎など、それぞれを新人監督としてデビューさせる。『いつかギラギラする日』『GONIN』『ソナチネ』などで多くのファンを掴む他、今村昌平監督で製作した『うなぎ』では、第50回カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞した。94年には江戸川乱歩生誕100周年記念映画『RAMPO』を初監督、98年チームオクヤマ設立後第一弾の『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、ロングラン記録を樹立。スクリーン・インターナショナル紙の映画100周年記念号において、日本人では唯一「世界の映画人実力者100人」のなかに選ばれる。日本アカデミー賞 優秀監督賞・優秀脚本賞、日本映画テレビプロデューサー協会賞、Genesis Award(米国)他多数受賞。18年、自身が監督したドキュメンタリー映画『熱狂宣言』が公開。
    昨年は「黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄」(春日太一著)が出版され話題を呼んだ。

    INTERVIEW

    足りないものは狂気

    『銃』を、どうしてもやりたい。
    そう思ったときの、あの気持ちが自粛期間中に、まざまざとよみがえった。
    これは自分が映画にできるのではないか。小説「銃」に対しては運命的な予感があった。
    いま、やるべきは、これだ。
    潜在意識に火がついた。
    そして、思い通りの素晴らしい映画が誕生した。しかし、興業は満足な結果とはならなかった。世の中を揺さぶる何かがまだ足りなかったのか。
    それは、狂気だと思った。狂気とは決して、美しいものでも、魅力的なものでもない。そもそも、映画を作るということ自体、「やらなくていいことを、なんでやるんだ?」という意味では、狂気なんだ。それは、他の人を巻き込む狂気だ。

    感覚の目覚め、普遍性の発見

    時代をなぞるのではなく、時代を開拓したい。
    映画は自由表現だ。感覚の進化を求めれば求めるほど、普遍性に気づいていく。感覚の目覚めを求めなければ、その普遍性にも向かえない。
    中村文則さんに伝えた。「不条理が疾走するような映画を作りたい。
    今度は女が銃を拾う原作を…原作が無理であれば原案を書いてもらえませんか?」と。
    かつて自分が持っていた狂気を同時体験した人間でないと、この映画には一肌脱いではくれないと思った。だから、佐藤浩市さんと加藤雅也さんにお願いした。まだ一緒に仕事をしたことはないが、共鳴する匂いのある友近さん。そして、テレビでは封印している狂気の芝居を映画で見せてほしかった吹越満さんに声をかけた。
    自分なりに「やりたいこと」をぶち込んだ。その結果、どういう料理になるかはわからなかった。
    よくよく考えると、むちゃくちゃな話だし、人間を冒涜するような部分もある。ただ、映画を通して、それを最短距離で体験したとき、観客が「自分の中に残るもの」を発見してほしいと思った。

    映画が観客に「話しかける」

    いま、映画と観客の「対話」が欠けている。いや、拒否しているのではないか。だから、映画からの「問いかけ」がないのだ。
    『銃2020 』で観客と「会話」をしてみたかった。自粛でどんどん現実の会話量が減っている中、映画が「話しかける」必要がある。そう考えた。
    実は、中村さんが書いてくれたラストがよくわからなかった。撮影中もわからなかった。わからないまま、どんどん進んでいったが、最終的には「映画」になった。
    優れた小説家がいて、優れた監督がいたからだ。
    わからないからこそ、「会話」のできる映画が生まれた。
    かつて『GONIN』を作った時、役員会で会長から「不快な映画」と言われた。「君は恥ずかしくないのか」とまで。感覚のどうしようもない乖離を感じながらも『GONIN2』へと突き進んだ。
    ある種の抵抗感を突きつけられることで、人間は、自分の中にあるものを「鏡で見てしまう」こともある。
    この映画が完成したとき、「やってしまった」と思った。中村文則という作家には、もともと「やってしまう」感がある。だから、惹かれるのだ。
    もし、武監督と自分とで原案を考えたら、このような映画はできていない。
    映画『銃』は文学だった。
    『銃2020』も文学だ。
    この映画の主人公には、アフターコロナのいまのほうが共感する人は多いと思う。いま、あらゆる物事を考え直す時期にきている。
    リリー・フランキーさんが二度、撮影現場に遊びに来てくれた。そして出演した。
    今度は、中年の刑事が銃を拾う話をやりたいと思っている。

  • 監督・脚本武 正晴MASAHARU TAKE

    1967年生まれ、愛知県出身。
    短編映画『夏美のなつ いちばんきれいな夕日』(06)の後、『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編映画デビュー。『カフェ代官山~Sweet Boys~』(08)、『カフェ代官山 II ~夢の続き~』(08)、『花婿は18歳』(09)、『カフェ・ソウル』(09)、『EDEN』(12)、『モンゴル野球青春記』(13)、『イン・ザ・ヒーロー』(14)、『百円の恋』(14)、『リングサイド・ストーリー』(17)、『嘘八百』(18)、『きばいやんせ!私』(19)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)など。
    『百円の恋』では、日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞受賞により話題を集め、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリーされるなど大きな反響を呼んだ。昨年は、総監督を務めたNetflixオリジナル『全裸監督』がブームとなり、『全裸監督2』への期待が寄せられている。
    今年は、ほかに『ホテルローヤル』、『アンダードッグ』が公開予定。

    INTERVIEW

    現実が突き刺さってくる

    日南響子さんを起用して、どこまで組み立てていけるか。それが面白さであり、勝負でもありました。
    『銃』ではトースト女としてのワンポイントでしたが、今回は出ずっぱり。『銃』の主人公からカメラは常に離れない。緊張感があるので俳優にとってダメージはキツい。でも、やりがいもあるはずで。前作の虹郎くんも妙な色気を出してくれたし、作ってくれた。日南さんもそうでしたね。さらに面白い存在になりました。これは、自分だけの発想では絶対作れないもので、ラッキーだなと思いましたね。
    この面白さはストレンジ。つまり奇妙なもの。なんだ? この映画? ということだと思うんです。座席から転げ落ちる人もいるかもしれない。観た人全員が幸せになる映画ではありません。でも、中には「すごいもの見つけた!」となるかもしれません。
    スタッフもキャストも、ワクワクしながら映画を作っていることがわかるんです。中村さんが書いた脚本が、ここまでパワーを持つのだなと。僕自身、『銃』を一度作っているので、胸を張ってできることがありましたね。
    前作ではモノクロに挑戦しましたが、今回は主人公の部屋を電気が止められている設定にしました。普通の映画の中では、部屋は電気が止まらないけど、現代社会にはそういう生活をしている人がたくさんいる。この設定で、照明技師はどうするか。撮影は? 美術は? 通常のドラマツルギーとは別なものが生まれると考えました。
    これも中村さんが連れて行ってくれたことですね。中村さんが書くものは、「現実の地べた」が突き刺さってくる。どこかにナマな瞬間をぶら下げてくる。そして、突拍子もなくファンタジックな世界を持ち込んだりもする。このことで、普通の映画とは違う「表現の美」が、人物たちの魅力を輝かせてくれると直感しました。これは、楽しいけど、怖い感覚でしたね。映画にはもともとない小説ならではの世界観を、どうやって映画で表現するか。それは、中村さんが書いたものを読んだときに感じる「上手い!」「やられた!」という言葉の力によってもたらされた瞬間を「映画で作る」ということでした。

    男を棄てるように

    今回は、銃を「男」として捉えました。『銃』よりも擬人化はさらに強くなった。前作で銃は、人間の内面にある象徴でした。それを堂々と「男性」として提示したのが『銃2020』です。
    意識したのは銃弾ですね。銃は弾を発射して、その弾が当たることで人が死ぬ。銃のメカニズムに一歩近づいたとも言えます。『銃』では、ひとりの男の子が拾った曖昧なものでしたが、銃の仕掛けに接近して捉えたのが今回です。銃は弾がなければ誰も死なないし、なんの役にも立たないわけですから。
    その銃をかつて所有していたのも女性だったということで、女から女への連鎖も描けると思いました。銃は男性社会のシンボルでもある。この社会における女性の在り方も結果的に炙り出せると考えました。
    クラシカルな、たとえば1950年代の映画には、女性が男性に向かって発砲する場面がほとんど存在しない。銃を構えても、撃つ瞬間は映さない。シルエットや音だけで表現している。つまり、銃は男が使うものだという認識が、アメリカンニューシネマ以前の映画には間違いなくあった。そうした長年にわたる「女の無念」を晴らすこともできるのではと。
    ただ、今回は前作にはなかった「救い」があります。ここが重要な点であり、中村さんの願いでもあった。
    日南さんには、「男を棄てるように、銃を捨ててください」と伝えました。すごく好きな男を、最後の最後に棄てた。そうなればいいなと思いしました。
    映画を観た人が、いろいろなことを考えてくれるといいなと思います。小説もそうですが、映画も「自分だけにメッセージが届いた」と思い込めるときがあるじゃないですか。『銃2020』も、そんな作品になることを祈ります。
    映画は、観た人が「作る」ものですから。

  • 音楽海田庄吾SHOGO KAIDA

    1972 年生まれ、奈良県出身。
    幼少よりバイオリン、ギターを習得する。管弦楽だけにとどまらず、あらゆる音楽の精鋭達とのセッションを通して得たユニークな音楽表現で多くの映画に参加している。
    主な代表作は、『百円の恋』(14/武正晴監督)、『ビジランテ』(17/入江悠監督)、『銃』(18/武正晴監督)『終わった人』(18/中田秀夫監督)、『虹色デイズ』(18/飯塚健監督)、『喜劇 愛妻物語』(20/足立紳監督)、『犬鳴村』(20/清水崇監督)など。『北の桜守』(18/滝田洋二郎監督)では第42回日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。『ステップ』、『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』(飯塚健監督)が公開予定。

    COMMENT

    前作『銃』では、生活する中で聴こえてくる俗調な音楽を配することで、洗練や全能を渇望する青年の苛立ちを増幅する効果として、環境音楽(エレベーターミュージック)すべてを作曲しました。その対比として自ら鼓舞するように流すメインテーマ、なぜか心地よく聴こえてくるキャンパスでのSax練習(不完全の完全)、唯一の喜びの曲(ユウコと別れてから銃と踊るように夜道を歩くときの曲)、そしてベートーベン。彼を取り巻く音楽は、「自ら選んだもの」、「選ばずとも彼の心境に大きく作用するもの」、「忘れてしまいたいもの」と、それぞれの役割がありました。
    今作の音楽は、東子の銃への想いと心情の音楽がメインになっています。その東子に時に甘えた子供のように、時に愛を囁くように、そして強引に東子を支配しようとする銃から発せられる声というように、音を擬人化しました。銃から発する声は東子を落ち着かせ、時に狂わせる。一聴してわからないかも知れませんが、前作同様バイオリンの音です。それは東子の耳には甘美な愛の歌に聴こえています。銃と別れる時に初めてその音が単にバイオリンの一音だった事に気づくのです。
    また、前作は鼓舞する為に流れていたメインテーマの扱いを、今作では辛い境遇を思い出すときの音楽として機能させています。
    東子と銃の『愛のテーマ』として一貫して出会いから別れまでを本当に細かく乗せています。それは美しく、危うく、狂気性のある音楽にしました。2人の気持ちに決してはみ出ないように細心の注意をはらって配しています。
    ラストに向かう為の曲たち全てが、5分の最終曲(エンドロールに流れる音楽)に爆発と悲劇をもたらす事になったと思っています。

  • 撮影西村博光Hiromitsu Nishimura

    1965年生まれ、山口県出身。
    主な作品は、『おっぱいバレー』(09/羽住英一郎監督)、『闇金ウシジマくん1、2、3、final』(12、14、16/山口雅俊監督)、『屋根裏の散歩者』(16/窪田将治監督)、『探偵は、今夜も憂鬱な夢を見る。2』(19/毛利安孝監督)など。
    武正晴監督作品では、『カフェ代官山1、2』(08)、『モンゴル野球青春記』(13)、『百円の恋』(14)、『リングサイド・ストーリー』(17)、『嘘八百』(18)、『銃』(18)、『きばいやんせ!私』(19)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)。

    COMMENT

    『銃』に引き続き、撮影に携わることになった時、まず思ったことは<意外>でした。前作を踏襲するのかと思っていたからです。でも、良く考えるとそうなのかも知れません。
    銃に翻弄、魅了される女、、、東子。
    東子の部屋の設定には苦労しました。ゴミ屋敷、電気は不通。暗がりを表現する難しさ、見せたいものをどう捕らえるか?
    この東子の部屋のシーンは、大変でしたが、気に入っているシーンでもあります。東子の息吹きを感じて頂けたらと思います。

  • 照明志村昭裕Akihiro Shimura

    1978年生まれ、東京都出身。
    主な作品は、『Drawing Days』(15/原桂之介監督)、『サイモン&タダタカシ』(17/小田学監督)、『羊の木』(18/吉田大八監督)、『私の人生なのに』(18/原桂之介監督)、など。
    『銃』(18/武正晴監督)では、日本映画テレビ照明協会の第50回照明技術賞・映画部門優秀新人賞を受賞。『青くて痛くて脆い』(狩山俊輔監督)が公開予定。

    COMMENT

    東子の部屋は昼間でも締め切られている上に電気を止められているので、普段は電池式のランタンや懐中電灯の中で生活しています。とても狭い室内で窓からの外光も天井灯も無い暗い世界をつくるのは難しい作業でした。シーンごとの芝居によっての灯りの点け消しや配置を変えたり、ろうそくを使ったりなどで不安定な主人公を表現できたと思います。
    撮影の西村さんの意図により全体的に少し色を排したトーンになるため、暗部はしっかり黒くなるようにしました。カラー作品ではありますが白黒に近い印象があり、前作『銃』のイメージを残しています。
    刑事のマンションでは部屋のど真ん中にベッドがある不気味さをブルーの照明で強調しました。当初は天井のダウンライトを部分的につけるつもりでしたが、すべて消していきましょうという武監督の提案があり、美術の野々垣さんが用意した電飾の青を活かさせていただきました。東子の部屋が乱雑な中の暖色系の明かりだったのに対し、整頓の行き届いた空間を寒色系にすることで刑事の神経質な感じを表現しました。
    このふたつの部屋の対照的な異様さはこの作品の重要なイメージです。